代表鈴木のコラムが5月11日のサンケイ新聞フジサンケイビジネスアイ「論風」に掲載されます。

【論風】苛烈な日米経済対話 TPP見直しを交渉のカードに (1/3ページ)

ナチュラルアートCEO・鈴木誠

 貿易・投資ルールなど3つの重要課題を話し合う日米経済対話が始まり、筆者が前回の当欄(1月26日付)で指摘した通り、米国との厳しい2国間交渉が動き出した。日米貿易はアンフェアな状況にあると主張する米国は、日本にさらなる市場開放を迫ってくる。

国内農業が標的に

農業分野では、牛肉やコメ、ひょっとしたら今、品薄で話題のポテトチップス用ジャガイモなどさまざまな作物が標的になる。関税問題のみならず、商慣行などあの手この手で日本の市場に風穴を開けようとするだろう。

食の問題は、単なる経済問題ではなく、国の安全保障や国のあり方にとって、極めて重要であることは、これまで繰り返し述べてきた。理由のいかんに関わらず、米国産農作物が日本国内に、より多く流入することは、国内農業の衰退を意味する。

ただでさえ自給力に不安がある日本がますます深刻な状況に陥る。国家にとって、食料安全保障は必須要件であり、そのためには一定レベルの自給力を確保しなければならい。

米国産農作物と国産農作物の、安全安心基準が大きく異なることも重大な問題だ。米国では牛肉など畜肉の肥育に「ラクトパミン」という成長促進剤を使っているが、国内では使用禁止剤だ。コメやサクランボなどの残留農薬規制は、米国は日本の何倍も緩い。遺伝子組み換え作物の生産は、米国では当たり前だが、国内では禁止。収穫後の輸送過程で散布される「ポストハーベスト農薬」に対する懸念も同様だ。

米国は日本の車をたくさん買っているのだから、日本は米国産農作物をもっと買えとは、議論としてはあまりにも乱暴で稚拙だ。日本は、経済性の議論ではなく、国の根幹を成す、食料安全保障と食の安全安心という本質的な観点から、政治のパワーゲームに翻弄されてはいけない。

 面倒で経済効果の薄い環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)よりも実質的経済効果が大きく、交渉相手としてくみしやすい日本をピンポイントで攻めるのは米国として当然の選択だが、日本はそれに乗せられてはいけない。

日本周辺で軍事的緊張が高まる中、米軍が全力を挙げて日本を守ると表明している。それは、軍事的安全保障面で日本には大きなメリットだ。だからといって、国内農業や食料安全保障を代替条件にすることは、明らかに間違っている。論理のすり替えである。

ヘビににらまれたカエルのごとき、米国ににらまれた日本が、堂々と米国に交渉を挑むには、確かにさまざまな事情があることは理解できる。しかしそれでも、米国産農作物への市場開放をめぐっては、安易に妥協や譲歩をするわけにはいかない。この国に仕える政治家や官僚は、日本の食料安全保障や食の安全安心、ひいては国民の健康が、大きな危機にさらされていることを認識し、国民のために最大限の結果を生み出してもらいたい。必要なのは努力ではなく、結果だ。

米抜き会合で主導権

 5月下旬に、ベトナムでアジア太平洋経済協力会議(APEC)が開催される。そこでは、米国を除くTPPメンバー11カ国が、再度TPP批准に向けて、閣僚級協議を行う予定だ。これは、日本にとっては、大きなチャンスになる可能性がある。日本が自由貿易協定でリーダーシップを発揮できる可能性があるからだ。米国の参加を前提としたTPPの協定内容を見直す機会が与えられる可能性もある。その場合、新たなTPP協定を、米国との2国間貿易交渉のカードに使いたいところだ。中国を中心に準備が進んでいる東アジア地域包括的経済連携(RCEP)にも、一定の牽制(けんせい)になる。

4月中旬に今年のAPEC議長国ベトナムを訪問し、なお未整備ながら若く躍動感のある国の成長力を目の当たりにしてきた。同国を中心に新たなTPPの枠組みが作られ日本に新しい可能性を開いてくれるものと信じたい。

【プロフィル】鈴木誠

すずき・まこと 慶大商卒、1988年東洋信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)入社。ベンチャー投融資担当などを経て98年退社、2001年日本ブランド農業事業協同組合事務局長、03年3月ナチュラルアート設立。農業経営・地域経済活性化・店舗運営・食育プロデューサー。大正大学客員教授。八戸学院大学客員教授。50歳。青森県出身。

 

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